決して暗闇に溶け込まない、煌々と輝く白い月。 月明かりは、まるで現実と虚構の狭間のようで。 ひとりで歩きたい夜。 ただひとつ光るそれは、私をひどく安心させる。 「、?」 「あれ、真田だ。何してんの」 「それはこっちの台詞」 「おさんぽー」 「散歩って・・・、いま夜中の3時だぞ!?」 「別に夜中に散歩してもいいじゃん」 「よくない。危ないだろ」 「こんな田舎町が危ないわけないのに」 「いいから、ほら、帰るぞ」 「もうちょっと」 「・・・、ったく」 人気のない河川敷。 ぼんやりと空を見上げていれば、 降ってきたのは隣の席に座る彼の、少し堅い声。 こんな時間に出歩くな、なんて保護者みたい。 それでも一緒に空を見上げている。 ああ、いいな、こういうの。 煌々ときらめく月明かりに照らされた横顔を盗み見る。 なんだか難しそうな顔をして、月を眺めている。 この顔、好き。 そう。 わたしはもう、ずっと前から、彼のことが好きなのだ。 「つき、」 「え、」 「月が綺麗だね」 「ああ、そうだな」 真田が一瞬、驚いた表情を見せる。 つき、と、すき、 聞き間違えてくれたらいいのに。 それで、俺もすき、なんて言ってくれれば。 弱虫なわたしは、こうやって、曖昧にしか思いを伝えることができない。 それでも、立ち上がるわたしの手をそっと握って 「送っていくから帰ろう」と呟く彼に、期待せずにはいられない。 つきよ、すきよ。(月よ、好きよ) 素直になれるまで、おつきさま、見ていてね。 宵待ち月にキス (2009.06.15/ 楪―サユ ) |