ぽたぽたと滴のたれる音を聞く。 秋の葉の匂いと、 すぐそこに近づく冬の匂いが混ざり合う。 この冬こそは、恋をしたいものだ。 なんて、妄想めいた事を考えながら家へと歩く。 エレベーターを降りて、右へ。 曲がってすぐの扉を開ければ、暖かい我が家だ。 逸る気持ちを抑えながら、鍵を取り出す。 と、その時ふいに視界に入った黒い塊。 隣の部屋。 玲美さんが住む部屋の前に、男の人が座っていた。 恋人だろうか。 いや、彼氏がいるなんて話は聞いてない。 じゃあ、? とにかく、誰であろうと声をかけねば。 男の人は知らないのだろう。 玲美さんは、3日後まで出張で帰らないという事を。 「あの、」 「はい」 「玲美さんに御用、ですよね?」 「そうだけど」 少しうとうとしていたのだろうか。 男の人は鬱陶しげに顔を上げると、掠れた声で答えた。 「私、隣に住んでる者なんですけど」 「ああ。さん?」 「そうですけど、あれ、なんで名前」 「姉貴に聞いた」 「玲美さんの、弟さん?」 「うん。弟の横山平馬」 「そうなんですか!」 「姉貴どこ行ったか聞いてる?」 「あ、そうそう。玲美さん、3日後まで出張ですよ」 「出張?」 「はい。福岡に行くって言ってました」 「なんだ。メールしとけばよかった」 行き違ってしまったのだろうか。 弟さんは、しばらくうーんと呟きながら考え込んでいた。 私もさっさと部屋に入るわけにいかず、答えが出るのを 同じようにドアの前に立って待っているしかなかった。 「そうか、」 何か思いついたのだろう。 弟さんが、ぽんと手を叩いてこちらに向き直る。 「さん。ネコ飼いたくない?」 「は、」 「食欲旺盛だけど、手はかからない。ちなみに、オス」 「ま、まあ、ペットは飼いたいですけど・・・」 「じゃあ決まり」 「え、っと?」 「3日間、俺をここで飼って」 「・・・はあ!?」 「飼い主には従順なんで、よろしく」 「待った、待った、待った!!!」 「ネコ飼いたいんでしょ?」 「ネコはね! でも、弟さんは人間じゃないですか!」 「大丈夫。ネコだと思ってくれていいから」 「そういう問題じゃないでしょうが!!」 (2010.03.25 強引な押し売りネコがやってきた) |