広い車内の中、耳障りなアナウンスなどは無い。 ガタゴトと鳴る車輪の音が、現実離れしていて心地よい。 手持ちのカバンから、綺麗なエメラルド色の封筒を取り出す。 すでに封が切られているソレからは、何枚かの手紙が零れてきた。 「ホグワーツ魔法魔術学校 入学案内書」 何度も何度も読み返したため、端の方が少しよれてしまっている。 開かなくたって、内容は覚えているのだけど。 確認程度に取り出した紙の束を、もう一度丁寧に封筒に戻した。 出発して、どれほど経っただろうか。 変わり映えのない田園風景にも慣れ、ぼんやりとしていた。 そんな頭に、透明な、少し高めの声が撃ちこまれた。 「あ、いた」 いつの間に来たのだろうか。 開け放しておいたコンパートメントの入り口に、少年が立っていた。 その少年の後ろから、もうひとつ顔が覗く。 前に立つ茶色い髪と、後ろの金髪のコントラストに瞬間、目を奪われる。 いつまでも対峙しているわけにはいかない。 「どうぞ」と、2人を招き入れる。 発車してからしばらくぶりに発した声は、 恥ずかしいことに少し掠れてしまった。 (2008.03.21) |