しゅわしゅわとコーラのはじける音。

触れる指先の熱。


顔の輪郭をなぞる汗。

触れる指先の、ねつ。



どうしてもそこにだけ意識がいく。

ネツ。




































「何、それ」

「コーラ」

「見たことないメーカーだけど」

「購買ブランドってやつですよ」

「へえ」

「こっちは英士クンのね」

「くれるの?」

「うん。巻き込んだおわび」

「気にしなくて良いのに」

「まあまあ、受け取ってよ」

「ありがとう」
























先週、数学の小テストをうけそこねた。

風邪を引いたからしょうがないのだけど。



やれやれと追試を受けに行けば、ついでにこれも、と

先生にプリント作りまで手伝わされる羽目になった。

ちょうど別件で来ていた英士クンも、一緒に。











こっそり、ラッキーだなんて思ったことは、ここだけの秘密だ。





































「あつい」

「コーラがあるでしょ」

「ぬるくなっちゃった」

「いつまでも置いておくからだよ」

「英士クンは涼しそうですね」

「俺だって人並みに暑いです」

「汗かいてないじゃん」

「背中、とか」

「見えない」

「見せてあげようか?」

「えー。何そのセクハラ発言!」







あからさまに嫌そうな顔をする私に、英士クンはくすりと笑う。

あくまでも嫌そうな「フリ」だ。

英士クンの背中が拝めるなら、気温よどれだけでも上がるが良い。

って、セクハラ発言は私の方か。



































英士クンが、プリントを折るために顔を右に傾ける。

首筋の髪の毛がさらりと揺れた。



サッカーをしているはずなのに、首筋はぞっとするほど白い。

思わず身震い。

ああ、わたし、英士クンに色気を感じた。





































どくんどくんと、高鳴る鼓動。

少しばかり震える指で、無造作に髪をかきあげる。









瞬間、

こつん、と何かが落ちる音。



































、ピアス落ちたよ」

「え?」

「そこ」

「あ、本当だ」








足下にきらりと光るピアス。

よいしょ、と言いながら拾えば

「年寄りくさいよ」と笑う声が聞こえる。


川のせせらぎのように涼しい声。

だけども、それは私を余計に熱くさせる。







じわり、額に汗が浮き出る。


































視線を落として、拾ったピアスをぐいぐいと耳に押し付ける。

いつもは数秒で入るのだが、今回はそういうわけにいかない。

あれ、などと呟きながら見当違いなところへとピアスをあてる。














「入れてあげようか?」

「え?」

「ピアス。貸して、」

「わっ」






















手元のピアスがするりと持っていかれる。

触れる、指先。


熱が一気に耳たぶへと集中する。

あつい、あつい。





























怖くないのに、背中を汗が伝う。

だけど私の口元は緩む。

照れくさい、でも嬉しい、というような笑み。






もちろん、英士クンがこちらを見ていることを見越して。























、」



耳に生暖かい息がかかる。

心臓がどくんと跳ねた。

あつい。







































「わざと、ピアス落としたでしょ」
















その言葉を言い終わる前に、私は英士クンのネクタイを

引き寄せるようにぐっとひっぱる。

前のめりになる、英士クンの体。


そのクチビルを待ち受けるのは、私のソレで。
























その冷たい指先は、私を熱くさせるためだけに存在すれば良い。































(2008.06.30/0-19 Fest*提出「我侭なくせに誠実な指先」)