「お誕生日おめでとうございます。お祝いにやってきました」


































4月19日、春だというのに少し肌寒い夜。

俺の誕生日。

さっきまでサッカー部の面々と騒いでいたのがウソのように、

1人の部屋は静まり返っていた(あいつらが煩すぎるのもあるけど)






もうすぐ日をまたぐ、なんて思っていたら、

突然聞いたことのない声が耳を掠めた。






























「は、」

「椎名翼氏、お誕生日おめでとうございます」

「どうやって入ってきたわけ!?」



俺の部屋は、2階。

階段を使わなければ上がることはできないし、

何よりもドアや窓すべてに鍵がかかっていた。


そんな密室状態の中、そいつは平然とした顔で挨拶をする。














「牡羊座の使い、と申します」

「牡羊座?」

「牡羊座生まれの椎名翼氏のお祝いにまいりました」




確かに俺は牡羊座だけど。

そんなこと今は問題じゃない、いや俺が牡羊座なのが問題なのか?

ぐるぐると廻る脳内をゆすり起こすように、頭を振る。


と名乗った少女(外見は同い年くらいだ)は、

俺の発声を待っているのかその場に立ち尽くしていた。

































「何の冗談?」

「冗談ではありません。主人からの命令で椎名翼氏へのお祝いを、」

「主人って」

「牡羊座です」

「はあ」





もはや溜息をつくことしか出来ない。

どうしたものか、と悩む俺に少女は小さな箱を差し出した。









「主人からのささやかなプレゼントでございます」

「それはどうも」


こうなったら、プレゼントでも何でも受取って

さっさとこの不思議少女に帰ってもらうより他はない。


小箱は、薄いピンク色の包装紙に包まれていた。

瞬間的にそれが桜の色なんだと思った。

何でかは分からないけれど。






























「椎名翼氏に、大きな幸せが降り続けるよう主人ともども見守っております」






























それはどうも、

なんて先ほどと同じような言葉は発せなくて。

ちいさなちいさな声で、ありがとう、と。

少女は、初めて笑ったように見えた。



促されて小箱を開けると、薄いピンク色の石がついたピアス。

やっぱり、桜色だ。




「ピアスなんて開いてないけど」

「開けた時にでも」









少女は、部屋のドアへと向かっていった。

仕事は終わったのだから、帰るのだろう。

この際、どういう風に帰るのか詮索するのはやめておこうと思う。
































「桜色は、誰にも愛される色です。きっとお似合いになりますよ」
















そう笑った少女は、まるで満開の桜のように。

ああ、やっぱりこれは桜色なのか。








一度ピアスに落とした視線を上げれば、そこには誰もいなかった。





























(08.04.19/椎名翼誕生祭提出作品)